この記事は沼 Advent Calendar 2018の21日目の記事です。

2018年はキーボード沼が広がった年だった。 キーボード沼は広く深いので全体を把握するのは困難だ。 そこで、新しくこの沼に踏み入れる者のために ガイドとしてキーボード沼マップ(ぬまっぷ)を公開したい。

筆者も近付いた事の無い沼もあるので、 間違いがあれば@ikejiまで指摘して頂きたい。

キーボード沼マップ

  • 既製品沼
    • キーボードを買う人
      キーボード沼への第一歩はこの沼だろう。 PCに付属のキーボードではなく、別に買ってきたキーボードを使う。 そもそも、それが可能だと知るのがキーボード沼への第一歩だ。
    • ゲーミングキーボード沼
      キーボードを最初に買い初める人の結構な割合がこれだろう。 見た目がカッコイイのが手軽に手にはいる。 それが沼の入口だとは知らずに。
    • Unix系
      Aの隣はCtrlではないといけない。 ファンクションキーやカーソルキーは使わないから不要で、小さいキーボードがいい。 このような理由でこれを選ぶ人が多い。Happy Hacking Keyboardなど。プログラマに多い印象だ。 106もしくは109キーボードからすると、60%程度のキーしかないため、 自作キーボード沼住民には60%キーボードとも呼ばれる。
    • 薄いキーボードが好きな人
      普段ノートPCを使っていて、その感触のキーボードを好む人。 とりあえず薄ければいい人と、ThnkPadのキーボードを外付けにしたのを買う人に分けられる。 後者はトラックポイントがついている事も重要だ。
    • エルゴノミック
      腱鞘炎に困る人などに人気のエルゴノミックキーボード。 Microsoft製のを選ぶ人、Kinesis advantageが好きな人、今は失われたTronキーボードを愛用する人など。 当然後者に行く方が沼が深い。
    • キーボード基準にノートPCを買う人
      デスクトップPCのキーボードは買い替えてる人が次にハマるのがこの沼だ。 メモリは増設でき、液晶パネルは交換できても、キーボードのタッチを違う種類の物に変えるのは困難だからだ。 全く沼である。
  • キーマップ沼
    ハードウエアが必ずしも必要でないという意味で、うっかりはまりやすい沼の一つがキーマップ沼だ。 たしかに。入るのは簡単だが奥が深い。
    • Caps置き換え・SandS・AZIK派
      キーマップ沼の最初の入口として一般的なのがCapsLockをCtrlにする事だろう。 そして、スペースをシフトにしたり、AZIK配列を追加したりなど、 基本のQWERTYをベースにしてキーマップをいじっていく。
    • Dvorak派
      世の中ではQWERTY配列が良く使われているが、QWERTYは高速に入力するために最適なキー配置ではないと言われている。 Dvorak配列は、なるべく入力中の指の動きを少なくするべく作られた配置だ。 上のちょい足しと違ってガッツリ練習しないとブラインドタッチができない。 一度入ってしまうと抜けるのが難しい沼だ。
    • 自作配列沼
      Dvorakは英語を入力するために作られた配列なので、日本語を入力するためには必ずしも最適ではない。 また、自然言語を入力するための配列なのでプログラミングで必要な記号の入力も簡単とは限らない。 そこで、自作配列沼の住人は自分用の配列を日々開発している。 ここまで行ってしまうと誰も助けに行けない沼だ。
    • 親指シフト派
      親指シフトを搭載しているワープロはなくなったが、根強い人気を持っているのが親指シフト配列のキーボードだ。 日本語を入力するのに最適化されているため、日本語で文章を大量に書く人に人気だ。 思考を妨げずに入力できると言われている。 メーカーからの新作がないのに住人の努力によって維持されている沼の鏡のような沼だ。
    • 漢直
      親指シフトは日本語の入力に特化していると言われるが、まだかな漢字変換がボトルネックになっている時があるそうだ。 それを解決する究極の入力方式が漢字直接入力だ。 キーの組み合わせに漢字を直接割り当て、それを入力する事により変換する作業を飛ばして漢字を入力できる。 漢字全てのコードを覚える必要があるため、かなりの訓練が必要になる。 漢直ユーザーも入力しない漢字のコードは忘れてしまうが、 これを定期的な練習で克服すべき派と、入力しない漢字は忘れても問題無い派で内戦が繰り広げられている。 たいへんストイックな沼だ。
    • ソフトウエアキーボード自作派
      タッチパネルデバイスが登場してきてからの比較的新しい派閥。 フリックなど物理的なキーの制約から解き放たれた新しいフロンティアを探すという側面と、 ソフトウエアのみによってアイディアを実現しているために沢山のプロトタイプが作れるという側面がある。 物理的な物から独立した沼だ。
    • キー数至上主義者
      • 少なければ少ないほどいいよ派
        キーが少なければ少ないほど、指の移動量は少なくなっていき、より高速に入力が可能になっていく。 このアイディアの源流は1970年代まで遡る。 この方式の最初のキーボードは、「全てのデモの母」に登場する楽器のキーボードのようなキーボードである。 これは複数のキーを同時に押す事で入力していく。 極論すれば8つのキーを押せば8bit=1byteの情報を入力する事ができる計算になる。 現在の少ないキーのキーボードはいくつかに分類できる。
        • 身体に障害がある人向けの方式
          例えば、点字キーボードがこれにあたる。 本来は目の見えない人向けのものである点字を入力するキーボードだったが、 これがモバイル性に優れ高速に入力できるため、すべての人に向けて作られた。例えば、GKOSがこれにあたる。
        • 速記
          速記タイプライターこの方式を使っている。 本来は押したキーを記録し、後で解読する方式であったが、 今では、コンピュータを使い、入力時に文字に変換されている。 この方式では、1押しで文字ではなく単語を入力するのも特徴である。
        • モバイル向け
          キーの数が少ないという事はそれだけサイズが少なくなる。持ち運べる機器ではその特徴が有利に働く。
      • 多ければ多いほどいいよ派
        コンピュータが進歩すればするほど、ソフトウエアも進歩していく。 モディファイヤキーはCtrl,Shiftなど少数だったが、 MetaキーSuperキーHyperキーコマンドキーGUIキーメニューキーなど、 どんどん増えてきている。 また、今後も、ソフトウエアスタックが深くなる事で、リモートデスクトップ用のキー、 VM Hostの操作用などどんどん増えていく。 プログラミング言語の中には独自の記号を使う物もある古くからはAPLがあり、 プログラミング言語専用のキーボードが使われていた。 近年では、Unicodeにある記号を使う事ができるプログラミング言語も増えてきている。 このようにもっと沢山のキーがあるキーボードが探求されている。
  • キースイッチ沼
    キーボードハードウエアの中でも一番カスタマイズが活発なのはキースイッチだろう。 しかし、その沼はかなり深い。
    • メカニカル派
      自作キーボード界で最も人気があるキースイッチはやはりメカニカルキーであろう。 市販の高級キーボードでも採用されている。
      • 各種軸色派閥
        メカニカルキーボードは種類によって全く異なる使い心地がする。 種類は軸の色を使って呼び分けれる。茶軸、青軸などという感じだ。 この沼の住民は、メーカーや軸を比較するために、 各種のキースイッチを並べたキーテスターを持ってるので、 借りて試して自分に合うのを探してみよう。
    • まだ見ぬ静電容量派
      Happy Hacking KeyboardやREALFORCEは東プレ製の静電容量キースイッチを使っている。 金属が擦れる接点がないため、独特の打鍵感と高い耐久力を持っている。 これを自作キーボードに搭載できないかという努力があちこちで行われているが、 今のところ中々難しいのが現状だ。
    • カスタマイズ島
      市販のキースイッチをそのまま使うのでは満足できず、カスタマイズしている人達が住んでいる。
      • Oリング
        キーを一番奥まで押し込む事を底打ちと言うが、 底打ちをしてしまうと、音がうるさかったり、指が痛くなる。 そこで、キーの上に一つ一つゴム製のリングをつけて底打ちをやわらかくするというカスタマイズが行なわれている。
      • Lube
        キーを押した感触を良くするためにキーを1つ1つ分解して潤滑油を塗り込むらしい。やった事ないのでわからない。 塗り込む液体の種類などを試していくといつのまにか深いところまではまってしまう沼である。
      • スプリング交換
        キーの押した重さは軸によって違うが、それは内蔵されているバネによって決まる。 バネを特注した物に変えたりするらしい。沼である。
      • 悪魔合体
        複数のキースイッチを分解し、別のキースイッチの部品と組み合わせて使うらしい。 プロは同じ設計のキースイッチの金型のすりへりぐあいがわかるので、好きな組み合わせが作れるらしい。 沼である。
    • 考古学者
      昔のキーボードに使われているスイッチは現在では作られていない物もあるが、 そのキースイッチをどうしても使いたい人たちがいる。 ある考古学者派閥は、古いキーボードを現代のPCに無理矢理接続して使う。 また別の考古学者派閥は古いキーボードからキースイッチを取り出し、分解洗浄して使うらしい。 考古学者が買いしめるため、古いキーボードの相場があがってるらしい。 すごい沼である。
    • フルスクラッチ自作
      キースイッチ沼の最深部がこれである。1からキースイッチを作っているらしい。 工場に生産を依頼して量産している猛者もいるらしい。
    • タクトスイッチ探求派
      自モ分野では、フルキーサイズのキースイッチが使えないため、 タクトスイッチが使われている。 タクトスイッチは押しにくく指が痛くなるので、あまり注目されていなかったが、 近年の研究で、この辺の沼にはまっている人達が発見された。 タクトスイッチは型番やメーカーが示されずに売られているため、 「どこどこの店に最近入荷したタクトスイッチは押下トルクが少なめ」などという情報が交換されているらしい。 新しいが凄い沼である。
  • キーキャップ沼
    キーボードの顔にあたるキーキャップの沼もかなり深いようだ。
    • とりあえず買っちゃう派
      キーキャップ販売サイトを巡回して、見つけたキーキャップを買う沼。 キーボードの数より持ってるキーキャップの方が多い状態になる。
      • ダブルショット・トリプルショット
        普通のキーキャップは使っていると印刷されてる文字がかすれてしまう。 そこで、字と他を別のプラスチックで作る事で字をかすれなくする方法がダブルショットである。 字ごとに金型が必要なので、当然値がはる。
      • プロファイル
        一般的なキーキャップの形はキーの行ごとに違う。この形のセットをプロファイルと呼ぶ。 レトロな感じの背の高いキーキャップ、真ん中の行の方に傾いているもの、全部がフラットな物など多種なものがある。 更に新しいプロファイルが作られたりするため沼に沈んでいく。

      • キーボードの写真を撮った時に一番目立つのは、キーキャップの色だろう。 様々な色のキーキャップを買ったり、また、複数の色のキーキャップを混ぜて使ったりするとどんどん沼に沈んでいく。
      • 謎の記号
        キーキャップに謎の記号が書かれている物がある。当然押した時にそれが入力される訳ではない。 国外ではカタカナが書かれたキーキャップの愛好者がいるが、ランダムな順でならべていてカナキーボードではない。 また、ゲームのアイコンや、なぜか日本の都道府県のロゴを印刷したものまである。 画像だけなので新しいデザインを作りやすく簡単にどこまでも行ける沼である。
    • デザインから自作
      上記したようにプロファイルは新しく作れる。 大量生産するのは大変だが、近年、3Dプリンタが発達したり、個人でも押出成形に成功する人がでてきたので、 自作してる人がいる。 デザインはトライアンドエラーで繰り返す必要があるので、当然沼に沈んでいく。
    • アート派
      この派閥はキーの形をしたフィギュアを作るのに近い。 ぶっちゃけ使い勝手は度外視で見た目のみだ。 当然一品物や少数手作りなので、沼である。
  • 電飾沼
    • LED
      キーボードは光らないといけない。 ゲーミングキーボードでも光っている物があるし、自作でもLEDをつけて光らせている人は多い。 フルカラーLEDをつけて、モードなどによって色を変える事も可能である。
    • すべてのキーにLED
      キーボードにLEDをつけるのの進化形は、キースイッチ1つづつにLEDをつける事だ。 この場合点ではなく面でエフェクトを作る事ができる。 単に大量にLEDをつけるだけと思われるかもしれないが、 このレベルになると、USBで給電できる電力を上回る可能性がでてくる。 解決するには全体で改造する必要がある。沼である。
    • OLED
      LED以外の電飾として、有機EL液晶画面をつけるというのもメジャーな改良だ。 画面なので画像を表示する事もできる。ネギも振れる。
  • 音響沼
    • アコースティック派
      まずは基本。キーボードの打鍵音にこだわる派閥。キー自体の音の発生させかた、それをケースでどう反響させるかにこる。 キーボードを打ってる所をASMR動画にしたものを、見てみるとその片鱗が見えるかもしれない。 数値化できない良さがある。沼である。
    • 圧電スピーカ搭載派
      キースイッチから出るタイプ音を細かく改良するのは難しい。 そこでスピーカーを搭載して好きな音を出そうというアイディアがある。
    • ソレノイド…リレー派 スピーカーで音を出す場合、超低音である振動は伝えられない。 そこで、ソレノイドやリレーを搭載して振動も再現しようという一派がいる。 元々はタイプライターの押した感じをキーボードで再現する物らしいが沼である。
    • 楽器派
      文字入力のためのキーボードだが、楽器としても使えるようにしようという一派がいる。 QMK Firmwareもmidi出力機能がついている。
  • ケース沼
    • プレート(形とか素材とか)
      ケースの作り方はいくつかあるが、板をレーザーカッターなどで切って組み立てるのが簡単だ。 材質・形状で組み合わせが無限にある上、 プレートの組み方によってキータイプ音が代わるため、 かなり深い沼になっている。
    • 3Dプリンタ派
      レーザーカッターで作成したケースは平面にキーを並べる事になるが、 3Dプリンタでキーボードを作った場合、スイッチの配置はその名の通り3次元に配置できる。 これにより沼の深さも次元が違うように深まっている。
    • CNC派(木材、金属、複合素材)
      レーザー加工機では使える材料に制限があるが、CNCでの加工であれば加工可能な材料が増える。沼である。
  • 電子沼
    • PCBにこだわる派
      基板は通常キーボード内にあって直接見る事はない。 しかし、そこにあえて回路を綺麗にし、シルクスクリーンでグラフィックを追加するのが「粋」である。
    • IC直載せ派
      自作キーボードで主に使われるチップは、ピン間隔が0.8mmのQFPであり、半田付けの難易度が高い。 そこで、開発基板を買ってきてそれを代わりに使うわけだが、それをよしとしない派閥がある。沼である。
    • DIP至上主義
      手で半田付けしたいが、細かい半田付けはしたくない、という要望から作られたのが、 ピンピッチ2.5mmのICとディスクリーと品だけで作られたキーボードである。 作られてみると、ICのサイズからレトロな雰囲気を醸し出していて一定のファンがいる。沼である。
    • アンチマトリックス派閥
      キーボードは通常行と列からなるテーブルのような構造をしていて、1行ずつ押されていないかチェックしていく。 これをよしとしない派閥がアンチマトリックス派閥である。一方で配線は複雑になる。沼である。
    • 通信プロトコル最適化派
      左右分割型キーボードでは、左右のキーボード間での通信が必要になる、 この通信をどうするかがこの派閥のホットトピックだ。 更に、左右だけではなく何台ものモジュールを接続して1つのキーボードとして動作させるというアイディアも出ている。 沼である。
  • ケーブル沼
    • 長さ重視派
      分割キーボードの左右を繋ぐケーブルにはTRRSケーブルを使う事が多いが、 普通の1メートルぐらいの長さのTRRSケーブルを買ってくると、長すぎる。 そこで、自分で丁度いい長さのケーブルを作ると机の上がすっきりする。 これが沼の入口である。
    • コネクタ派
      キーボードからTRRSケーブルを出すとコネクタの長さが長いと不恰好に見え邪魔になる。 そこで、L字型のコネクタを使うと多少すっきりする。 更に、金メッキのコネクタを使ったり、スプリングがついてるのにしたりと、探求すると沼である。
    • ケーブルの見た目派
      ケーブル自体にも工夫をする派閥がある。 カール状に巻いてみたり、色や硬さをの違うケーブルを試したり、メッシュ状のチューブを通してみたり。沼である。
    • ピン数重視 分割キーボードで、機能を追加していくと、左右で繋ぐ信号線の数が増えていってしまう。 そうなると、TRRSではなくTRRRSケーブルが必要になったりしてしまう。 そこをいかに減らすかというのもある、全体の最適化が必要であるので、沼である。
  • その他
    • カメラ沼
      きれいなキーボードの写真を取るために、カメラや撮影テクニックを磨きはじめる。沼である。
    • 自モ(自作モバイル)
      キーボードだけではなく、コンピュータ自体も作りはじめる。しかも、持ち運べるサイズに収める。沼である。

まとめ

書き出してみたら思ったより長くなってしまい、期限を過ぎてしまった。

皆様も良い沼ライフを。